Attach後なぜ、インターネットに出られるのか
2026-03-28
Attachだけでは通信できない理由と、GTPセッション確立によってインターネットに出られる仕組みを整理します
はじめに
セルラーネットワークで通信が成立するまでの流れは、大きく2段階に分かれる。
- Attach(コントロールプレイン)
→ ローミングの初回接続はなぜ遅いのか(2026年3月5日) - GTPセッション確立(データプレイン) → 本記事で解説
多くの場合「アンテナが立った=通信できる」と誤解されるが、実際には「1. Attach」が完了しただけの状態である。
■ 1. Attachによりどこまで完了しているか
Attachにより実現しているのは以下である。
- IMSI(15桁)に基づく加入者認証
- Home Networkへの接続許可
- UEの位置登録
この状態は「ネットワークに参加してよい」と許可されただけであり、 インターネットなど外部ネットワークへの通信経路はまだ存在しない。
補足として、SMSはこの段階で利用可能な場合がある。 これはSMSが主にコントロールプレイン側で扱われるためである。
重要なポイントは以下。
Attachはコントロールプレインの処理であり、データ通信とは別物
ここから先で、初めて「通信路(データプレイン)」を作る処理が始まる。
■ 2. Attach後の動き
ここで新たな追加要素としてAPN、GTPトンネル、S-GW、P-GWについての役割について簡単に解説する。
APN
Attach後、UEは外部ネットワークに出るための経路を確立する。 ここで重要になるのがAPNである。
APNは「どの外部ネットワークに接続するか」を示す識別子であり、 いわば“出口の名前”である。
GTPトンネル
モバイル網内でユーザデータを運ぶ仮想トンネル(outer header付きで転送される)
S-GW
基地局配下のトラフィックを束ねる中継点 (アクセスネットワークとコアの接続点)
P-GW
インターネットとの境界 IPアドレスの割り当てと外部通信の出口
P-GWでは、このGTPの外側ヘッダを取り除き、通常のIPパケットとしてインターネットへ送り出す。
なお、UEにはPrivate IPが割り当てられ、その後NATにより共有のGlobal IPへ変換されインターネットへ接続される構成となることが多い。
インターネット接続までの流れ
図中1〜6はセッション確立の制御処理を示し、 7で実際のデータ通信が開始される。 この制御プレインとデータプレインの分離が、セルラーネットワークの基本構造である。
| 0 | attach完了 | ||
| 1 | UE→MME | PDN Connectivity Request (APN含む) |
UEは「このAPNに接続したい」と要求するだけ この段階ではS-GWは知らない |
| 2 | MME | S-GWを選択 | MMEが以下をもとにS-GWを決定: ・UEの位置(Tracking Area) ・オペレータのポリシー 👉 ここで初めてS-GWのIPが登場(ネットワーク内部) |
| 3 | MME→S-GW | Create Session Request(GTP-C) | MMEがS-GWに対して: ・セッション作るよ ・このUE用ね と依頼 |
| 4 | S-GW→P-GW | APNを元に接続 | ・APN → DNS解決 ・対応するP-GWを見つける 👉 ここが「APN=出口」の実体 |
| 5 | P-GW | IPアドレス割り当て | ・UE用のIP(Private IPが多い)を払い出し |
| 6 | eNodeB⇄S-GW S-GW⇄P-GW |
トンネル確立(GTP-U) | 最終的に ・eNodeB⇄S-GW(S1-U) ・S-GW⇄P-GW(S5/S8) にGTPトンネルが張られる |
| 7 | UE→[S1-U]→S-GW→[S5/S8]→P-GW→Internet | UEインターネット通信開始 | UEがインターネットとの通信が開始される |
ローミング時インターネット接続までの流れ
構造自体は非ローミング(Home Network内で完結)と同一であり、違いは「配置が変わる」だけである。
■ 3. Home Routingの課題とLocal Breakout
前述の通り、Home RoutingではP-GWがHome Network側に配置されるため、ローミング時には通信がHome Networkを経由する。
その結果、以下のような経路となる:
UE → Visited Network →[国際回線]→ Home Network(P-GW) → インターネット →(戻りも同様)
これは往復で国際回線を通過することを意味し、レイテンシーの増大によりユーザー体感に大きな影響を与える。
この課題を解決するために用いられる構成が Local Breakout(LBO) である。
Local Breakoutでは、通信をHome Networkまで戻さず、Visited Network側、または地域内でインターネットへ直接接続する。 この構成では複数のP-GWが存在するため、どのGWが選択されるのかという疑問が生じる。 これはネットワーク設計上の重要な要素であり、複数のP-GWからの出口選択については次回以降の記事で取り上げる。
■ Local Breakoutの実装パターン
実際のネットワーク設計では、以下のような構成が取られることが多い:
- Home Network Operatorが地域ごとに出口(P-GW / UPF相当)を配置 (例:Asia / Europe / North America など)
- ローミング時は、その地域内の出口へトラフィックを誘導する
- Visited Network Operatorの設備を利用してローカルでブレイクアウトする
■ 設計の本質
ここで重要なのは以下である:
- 構造(Attach → GTPセッション)は変わらない
- 変わるのは「どこでインターネットに出るか」だけ
つまり、Home Routing と Local Breakout の違いは 「仕組みの違い」ではなく「配置の違い」である。