デバイスはどのようにネットワークを探しているのか

2026-03-21

セルラーデバイスがどのように電波を検出し、ネットワークを選択しているのかをBand・周波数・RAT・PLMNの観点から解説する

はじめに

IoTデバイスやスマートフォンは、電源を入れるだけで当たり前のようにネットワークへ接続されます。

しかしその裏側では、 どの電波を使うのかを選択するための処理が必ず実行されています。

本記事では、この「Attach前」の動作にフォーカスし、 デバイスがどのようにネットワークを探しているのかを整理します。


結論

デバイスは、基地局からブロードキャストされている複数の電波の中から、
BandおよびRATの設定に基づいて接続候補を選別し、その後のAttach処理へ進みます。


1. 基地局は何をブロードキャストしているのか

各通信事業者(MNO)は、国ごとに割り当てられた周波数を用いてサービスを提供しています。

基地局(LTEではeNodeB)は、その周波数上で以下の情報を含む電波を常時ブロードキャストしています。

■ RAT(Radio Access Technology)

無線方式を示すものです。

代表例:

  • LTE
  • LTE-M
  • NB-IoT
  • GSM(2G)

同じ周波数帯でも、RATが異なれば別のネットワークとして扱われます。

以下に各世代ごとのRATを整理します。

世代 RAT 特徴 IoTの世界
2G GSM 最も古い世代のセルラーネットワーク
- 主用途:音声通信(回線交換)
- データ通信:低速(GPRS / EDGE)
- 特徴:カバレッジが広い(国によってはまだ残存)
古いデバイスで利用されている
一部地域ではフォールバック用途として残っている
ただし、多くの国で停波(Shutdown)が進んでいるため、新規設計では基本的に前提にしないケースが増えている
3G UMTS
W-CDMA
2Gの後継として登場した世代
- 主用途:音声+データ
- データ通信:中速(数Mbps)
- 特徴:パケット通信の本格普及
一時期主流だったが現在は過渡期
3Gもすでに多くの国で停波が進んでいる(日本も停波済)
4G LTE 現在の主流となるRATです。
- 主用途:高速データ通信(All-IP)
- データ通信:高速(数十〜数百Mbps)
- 特徴:低遅延・高効率
- All-IP化(回線交換がなくなった)
- 音声もVoLTEでパケット化
低消費電力なLTE-M、NB-IoTが利用されることが多い
LTE-M
(Cat-M1)
IoT向け低消費電力派生 消費電力:低
データ量:中
モビリティ:あり
遅延:中
用途:トラッキング等
NB-IoT 消費電力:超低
データ量:低
モビリティ:制限あり
遅延:高
用途:センサー等

日本国内ではNB-IoTを提供している通信事業者はない
5G NR 最新世代のRAT
- 主用途:超高速・超低遅延・多数接続
- 特徴:
- eMBB(高速通信)
- URLLC(超低遅延)
- mMTC(IoT向け大量接続)
- まだLTEが主流
- 5Gは用途限定(高帯域・低遅延用途)

重要なのは、デバイスはこれらのRATごとに電波探索(スキャン)を行うという点です。 そのため、対応RATが多いほど、接続までの時間が長くなる傾向があります。

■ PLMN(Public Land Mobile Network)

通信事業者を識別するためのIDです。

  • MCC(国コード)
  • MNC(事業者コード)

の組み合わせで構成されます。 デバイスはこのPLMNを元に「どの事業者のネットワークか」を判断します。

※ PLMNの構造や、ローミング時にどのように利用されるかについては
ローミングの初回接続はなぜ遅いのか」で詳しく解説しています。

■ ポイント

重要なのは、

電波には「どのネットワークか(RAT・PLMN)」が含まれている

という点です。

デバイスは単に電波強度だけでなく、
その中身を見て接続候補を判断しています。


2. デバイスはどのように電波を探すのか(スキャン)

デバイス(正確にはセルラーモデム)は、電源投入後にネットワーク探索を開始します。 この処理が「スキャン」です。

■ スキャンの基本動作

セルラーモデムは以下の条件に基づいて電波を探索します:

  • 設定されたBand(周波数帯)
  • 設定されたRAT つまり、 すべての電波を見ているわけではなく、設定された範囲のみを探索する という点が重要です。

■ スキャンの実態

基地局からは、周波数・RAT・PLMNの組み合わせを持った電波が同時にブロードキャストされています。

デバイスはそれらを受信し、自身の設定に基づいて接続候補を選別します。

この図では、デバイスは以下のような状態で電波を受信しています:

  • Band内の複数の周波数(f1〜f5)
  • 各周波数ごとに異なるRAT(LTE / LTE-M / NB-IoT)
  • 2つの通信事業者(PLMN) その中で、デバイス側の設定としては:
  • 対象周波数(説明上):f1〜f5※
  • 対象RAT:LTE / LTE-M が指定されています。 ※ 多くのセルラーモデムは個々の周波数ではなく周波数帯(Band)で設定を行います。ここでは説明を簡素化するために周波数として進めます。

結果、以下の4つが接続候補として抽出されます:

  • 周波数 f1 / RAT:LTE / PLMN:440XX
  • 周波数 f2 / RAT:LTE-M / PLMN:440XX
  • 周波数 f3 / RAT:LTE / PLMN:440YY
  • 周波数 f4 / RAT:LTE-M / PLMN:440YY という動作になります。

これら4つの接続候補が

  • PLMN Selection(接続先ネットワークの選択)
  • Attach(接続・認証処理)
    に進みます。

※ PLMN SelectionやAttachについては
ローミングの初回接続はなぜ遅いのか」で詳しく解説しています。

■ スキャンの流れ

[電源ON]
   ↓
[スキャン開始]
(Band設定範囲の電波を受信)
   ↓
[候補セル発見]
(RAT条件を満たす電波を抽出)
   ↓
[PLMNリスト生成]
(接続候補をリスト化)
   ↓
[Attach試行へ]
(優先順位に従い接続・認証)

3. まとめ

本記事では、デバイスがネットワークに接続する前に行っている「スキャン」の仕組みを整理しました。

重要なポイントは以下の通りです:

  • 基地局は、周波数・RAT・PLMNの組み合わせを持った電波をブロードキャストしている
  • デバイスはそれらを受信し、自身の設定(Band / RAT)に基づいて接続候補を選別する
  • その結果、複数の接続候補(PLMN × RAT)がリスト化される
  • これらの候補が、PLMN SelectionおよびAttach処理へと進む

ここで重要なのは、 👉 デバイスは最初から接続先を知っているわけではなく、電波を「探索し、選択している」 という点です。

また、実務的な観点では、

  • 対応Bandが多い
  • 対応RATが多い

ほど、スキャン対象が増え、 👉 接続までの時間(特に初回接続)が長くなる傾向があります

そのため、

  • 不要なBandを制限する
  • 利用しないRAT(例:2G / NB-IoT)を無効化する
    といったモデム設定は、 👉 接続時間の最適化において重要な要素になります

本記事で整理した内容の後に行われる

  • PLMN Selection(接続先の決定)
  • Attach(接続・認証処理)
    については、 「ローミングの初回接続はなぜ遅いのか」で詳しく解説しています。 あわせて読むことで、デバイスがネットワークへ接続するまでの一連の流れをより理解しやすくなります。
Written by Tatsuya
IP / IoT / Mobile Network Architect
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