Attach後なぜ、近くのP-GWからインターネットに出られるのか

2026-04-04

Local Breakoutがどのように実現されているのかを、Attach処理とP-GW選択の観点から構造的に解説

はじめに

海外でスマートフォンやIoTデバイスを使っているときでも、
なぜか通信はスムーズに動き、「近くからインターネットに出ている」ように感じることがあります。

しかし実際には、ローミング中の通信は単純にローカルのネットワークから直接インターネットに出ているわけではありません。

では、

  • なぜ“近く”からインターネットに出られるのか
  • どの時点でその出口は決まっているのか

本記事では、この疑問に対して Local Breakout(LBO) の仕組みを軸に解説します。

ポイントは以下の通りになります:

  • UEの通信の出口(P-GW)は、Home OperatorのPolicyによって決まる
  • P-GWの選定はAttach手続き(コントロールプレイン)の中で行われる
  • その後、GTPセッション確立(データプレイン)によりS-GW〜P-GW間のトンネルが構築され、通信の出口が確定する

つまり、Local Breakoutは「あとから最適化されるもの」ではなく、
👉 Attach手続きの中で論理的に決まり、GTPセッション確立によって実体として確定する仕組みになります。

この記事を読むことで、Local Breakoutがどのような仕組みで動いているのかを、構造的に理解できるようになります。

まだ「Attach後なぜ、インターネットに出られるのか」をご覧いただいていない方は、
先にお読みいただくことで、UE(スマートフォンやIoTデバイス)がネットワーク通信できるまでの流れの理解がより深まります。


1. そもそもLocal Breakoutとは何か

ここでは、日本のキャリアを契約したスマートフォンやIoTデバイスを持って、欧州に渡航しているケースを例に考えます。

例えば、日本で契約したSIMをそのまま利用し、欧州でローミング接続している状況になります。

このとき、通信の経路には大きく2つのパターンがあります。

Home Routed (HR)
Local Breakout (LBO)
項目
Home Routed(HR)
Local Breakout(LBO)
通信経路
UE → 欧州のVisited Network → 日本のHome Network → インターネット
UE → 欧州のVisited Network → 欧州近傍のP-GW → インターネット
出口の場所
Home Network(日本)
ローミング先近傍(欧州)
通信距離
長い(遠回り)
短い
レイテンシ
増加しやすい
低減が期待できる
IPアドレスの見え方
日本のIPアドレスとして見える
欧州のIPアドレスとして見える

重要なポイント

ここで重要なのは次の点になります:

👉 どちらの場合でも、通信の出口はHome Operatorが制御していることになります。

つまり、

  • Visited Networkが勝手にインターネットに出しているわけではない
  • Home Operatorが「どこから出すか」を決めている

という構造になります。

この「出口の決定」がどのように行われているかが、Local Breakoutの本質になります。


2. Attach時に何が起きているか

以前の記事で解説した通り、UEがネットワークに接続するときには、

ここで重要になるのが、

👉 「どのようにして通信の出口(P-GW)が選択されるのか」

という点です。

この仕組みを理解するために、Attach時の動作をもう少し深く見ていきます。 まずは、これまでのおさらいとして全体の流れを整理します。

通信 処理内容 補足 関連記事
1 UE → MME Attach Request ネットワーク接続開始 ローミングの初回接続はなぜ遅いのか
で解説した範囲
2 MME → HSS Subscriber認証 加入者情報取得
3 HSS → MME APN / Policy情報を取得 Default / Allowed APN
4 UE → MME PDN Connectivity Request UEがAPNを指定 Attach後なぜ、インターネットに出られるのか
で解説した範囲
5 MME → S-GW Create Session Request 接続条件確定
6 S-GW → DNS APN Resolution APN + Serving Network
7 S-GW → P-GW GTP Sessionの作成 インターネット出口確定

ここでは 「接続している場所(Visited Network)が判断材料になる」 例で接続先が分散される仕組みを見ていきましょう。

ゴールは、

  • 日本にいるのか

  • 欧州にいるのか
    などの情報から

    👉 「どのP-GWを使うべきか」のPolicyに反映する

です。

*PLMNについては通信事業者の識別子5〜6桁です (記事「ローミングの初回接続はなぜ遅いのか」で解説)

APNと加入者ポリシーの関係

まず、P-GWの選択において前提となるのが、APNと加入者ポリシーの関係です。 "3"の過程で、Home NetworkのHSSからMMEに対して以下の情報が通知されます:

  • Default APN
  • Allowed APN(利用可能なAPN)

その後、“4”のPDN Connectivity Requestにおいて、UEは接続したいAPNを指定します。

ここで重要になるのは:

👉 UEが要求したAPNがAllowed APNに含まれているかどうか

です。

  • 含まれている場合 → そのAPNで接続処理が進む
  • 含まれていない場合 → 接続拒否(PDN Connectivity Reject)
  • APN指定がない場合 → Default APNが適用される

つまりこの段階で、

👉 「どのAPNを使うか」

が確定します。

実際の接続先P-GWの特定

次に、決定されたAPNをもとに、実際の接続先P-GWの特定が行われます。

"5"のCreate Session Requestにおいて、MMEはS-GWに対して以下の情報を通知します:

  • 使用するAPN
  • 加入者情報(IMSIなど)
  • Serving Network(Visited PLMN) これを受け取ったS-GWは、接続先P-GWを特定するためにDNSクエリを発行します。

このときのクエリは:

👉 APN + Serving Network(Visited PLMN)

をもとに構成されます。

例:iot.jupiter5.net + 23415(UKのServing Network)

このDNSクエリは、Home Network側のDNSに送信され、Home Network側のポリシーに基づいて適切なP-GWのアドレスが返されます。

Home DNSは単なる名前解決ではなく、

  • APN
  • 接続しているServing Network(Visited PLMN)
    といった情報をもとに、 適切なP-GWが返されるように設計されています

例えば:

  • 欧州のPLMNからの接続 → 欧州近傍のP-GW
  • 北米のPLMNからの接続 → 北米のP-GW
    といった形で、地理的に最適なP-GWが選択されます。

その結果、

👉 接続先のP-GWが決定される

という流れになります。

補足:より高度な制御について

本記事では、説明をシンプルにするために

👉 APN + Serving Network に基づいてP-GWが選択される構成

を前提としています。

一方で、実際の商用ネットワークでは、より高度な制御が行われる場合があります。

例えば:

  • 加入者単位(IMSI単位)で接続先を分岐する
  • 同一APNでも異なるリージョンへ接続させる

これらは、

  • Control Planeでのポリシー制御
  • DNSや内部ロジックとの連携
    といった追加要素により実現されます。 さらに、Serving Network側のMMEがこれらのポリシーに従って動作する実装であるかどうかも考慮する必要があります。

このような複雑さや接続性の課題を回避するために、GTP Proxyを用いた構成が採用される場合もあります。

GTP ProxyはHome Network事業者側に配置され、S-GWとP-GWの間を仲介することで、

👉 Home Network側でポリシー制御を完結させる

という役割を持ちます。

いずれの方式も追加要素が多く、構成が複雑になるため、本記事では扱いません。


3. 実務視点での影響

ここが実は一番重要になります。

IPアドレスはP-GWごとに異なる

  • P-GWごとにIP Poolが異なる
  • 同じSIMでも接続先によってIPが変わる

👉 インターネットから見た“場所”が変わることになります。


Geoベースのサービスへの影響

  • CDNの配信先
  • アクセス制御
  • コンテンツ制限

例:

  • 日本から接続しているのに海外IPになる
  • AWSリージョン選択がズレる

IoT設計への影響

ここはIoTで非常に重要になります。

  • Webhookの設計
  • エンドポイントの配置
  • レイテンシ設計

👉 「どこから出るか」を前提に設計しないと事故につながることになります。

典型例:

  • 遠いリージョンにデータ送信して遅延増大
  • Firewallで想定外のIPがブロックされる

まとめ

  • UEのインターネット出口はAttach時に決まる
  • P-GWはHome OperatorのPolicyにより選択される
  • Location情報もその判断材料になる
  • P-GWの分散配置によりLocal Breakoutが実現される
  • この設計はパフォーマンスとサービス挙動に大きく影響する

Written by Tatsuya
IP / IoT / Mobile Network Architect
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